データ復旧サービスのガイドライン 『データ復旧率』表記等に関して

お客様が我が国の市場に点在するさまざまなデータ復旧サービスをご利用されようとする際、「復旧率」、「復元率」など(以下、データ復旧率)の表記を用いて高いデータ復旧の成功率を宣伝している広告を目にすることがあります。

ただ、そうした高い数値の復旧率の宣伝文句が実際にデータ復旧サービスを利用してみたときとは全く異なっていて、トラブルが起きることがあります。

こうしたトラブルが起こることを考えると、データ復旧サービスに関わる事業者(以下、事業者)が合理的な根拠なく、また、お客様への十分で分かりやすい説明を事前にすることもなく、復旧サービスの結果を実際に出す前に、固定的な数値、とりわけ80%や90%などといった高いデータ復旧率を表示して宣伝広告することは必ずしも適切ではありません。

当協会は、データ復旧サービスのトラブルをできるだけ防ぐため、本ガイドラインを公に示すものです。

本ガイドラインの詳細については、以下の各章に分類してご説明いたします。

  1. 「データ復旧率」表記が招きやすい被害
  2. DRAJ が提唱するガイドライン
  3. 用語の説明
  4. 事例に基づくデータ復旧率の問題
  5. データ復旧率は変動すること
  6. 3〜4割のお客様が抱える復旧できない原因
  7. 事業者側がデータ復旧の成功を判断することの難しさ
  8. 被害に遭わないために
  9. 費用負担を事前に明確にする「RDRSP:2022 基準」
  10. 本ガイドラインが対象とするお客様の範囲
  11. ガイドラインの提唱企業名

 

1.「データ復旧率」表記が招きやすい被害

「データ復旧率」の表現を用いるWEB サイト上の広告に起因して、お客様から当協会に苦情が寄せられた相談例には以下のようなものがあります。

1. 合理的根拠の説明もなく、復旧率〇〇%のような表現で、高い数値での復旧成功率を事業者が広告に示し、お客様がデータを消失してしまう不安から当該復旧率に誘引されデータ復旧を依頼してしまう。

2. データ復旧ができなかった場合に、100%から復旧率を差し引いた極稀な状態に当たる事例であると事業者から事後的に言い訳され、一般のお客様は知識がないために納得を迫られる。

3. 自社との面識がない初めてのお客様をターゲットに、自社業務の健全性やデータ復旧市場のなかでの自社の優位性を強調してデータ復旧の依頼を誘発しながら、復旧の結果が出ないのに不均衡に高額な費用を(診断料、作業料金の名目などで)請求し、その結果、お客様側は悪徳なサービスを受けたとの印象を受ける。

4. 「診断料」などの名目で、実質的には単なる着手金(※)に過ぎず、お客様からデバイス(ないし記憶媒体)を事業者が受け取っただけで(あるいは作業に着手したと言い分けされて)高額な診断料を請求される。
※本来着手金は実作業を誠実かつ善管注意義務を払って遂行することを前提として前払いを受ける費用を意味しますが、4.ではそのような誠実かつ注意を払った実作業の追行もなく、単に受付をしただけで診断料名目で支払いを受ける実を伴わない費用請求を含意して「着手金」と称しています。

5. 費用を支払わないとデバイスは返さないと不当な理由を付けて事業者から言われる。

「データ復旧率」との宣伝文句を見てデータ復旧できるものと信じて当該宣伝の事業者に復旧を依頼してはみたものの、結局、お客様側にとって納得できない作業結果となり、それにもかかわらず高額な費用の支払いを強いられている方が全国的に存在すると思われます。

当協会では、高い復旧成功率を裏付ける合理的な根拠なく、お客様への事前の、十分かつ分かりやすい説明もないまま、高い「データ復旧率」を用いる宣伝を信じて復旧を依頼して起こる消費者トラブルをなくすため、データ復旧率の表示についてお客様の誤解を生まないガイドラインを策定しその周知を目指して、ストレージメーカー等を交え活動していく所存です。

 

2.DRAJ が提唱するガイドライン

以上のような認識から、データ復旧サービスにおけるガイドラインは下記のとおりです。

事業者は、

・「データ復旧率」という用語を営業活動に用いないことを推奨する。

・合理的な根拠とその説明のない、高い数値の「データ復旧率○○%」の表記はお客様を不当に誘引するおそれがあるため使用は控え、WEB サイト等での宣伝広告に表示しない。

・お客様のなかには、復旧できない障害が潜在的に3〜4割程度は存在するため、こうした復旧できない障害を除いた数値の実績表示や説明はお客様を誤解させるおそれがあるので、復旧できない障害を実績から除かない。

・データ復旧がうまく行かなかったにもかかわらず、診断料その他の名目で(作業の目的・複雑さ・手間・難度等を総合して)不均衡に多額な費用をお客様に請求できる内容の契約はしない。

・「RDRSP:2022 基準」を活用する。

本ガイドラインは今後業界全体のガイドラインとなることを目指しており、また、お客様がデータ復旧サービスを利用する際に、当協会加盟の事業者やそれ以外の事業者の選定にも適切な基準として役立つことを願っております。

また、事業者との紛争に至ったお客様が消費者センター等の公的支援機関を頼る場合において、窓口担当者が健全な事業者を利用した結果であったかどうかの規範としても活用していただけるものと思います。

当協会加盟の全事業者においては、本ガイドラインにのっとりサービスを提供していることを約束したうえで、当協会で本ガイドラインの策定までに至った裏付けとして「データ復旧率」表記の問題について次項より説明していきます。

 

3.用語の説明

データ復旧を必要とするお客様においてはデータを読み出せなくなった何らかの過程があることから、本ガイドラインではこの過程をデータ読み出し障害と呼ぶことにしました。

当協会では、デジタル・フォレンジック※1を除くデータ復旧行為について会員企業全社が精査しましたところ、データ読み出し障害は「論理的障害」と「物理的障害」の2つに分類されました。

※1 デジタル・フォレンジックは、情報流出、データ破壊、不正プログラム等の実行、不正アクセス・不許可の持ち出し、設定ミス、操作ミス、システム悪用、破壊行為、内部犯行その他のインシデントについて、コンピュータ・システムの仕様上、ファイル/データ/ネットワーク/内部等の様々な処理により残る証跡やログを含めたデータの取得・収集・保全、検査・分析、報告を行う広義の調査プロセスからなり、お客様が一般にデータ復旧を求める依頼を超えています。

事案によっては証跡等の不存在やデータ不抽出自体にも証拠性があり、また、プロセスの一部にも有用性が認められ、データの復元不能の場合にも対価を払う意味を有しています。そのため、本ガイドラインが対象とするデータ復旧サービスとは区別されます。

「論理的障害」と「物理的障害」については次のとおりとなります。

1. 論理的障害

誤消去、誤削除、初期化、人為的または使用機器の仕様や不具合に起因する上書きなどによるデータ消失(※1)、セキュリティ環境における暗号化などによるデータ使用の困難、ファイル破損、マルウェアその他サイバー攻撃によるデータ破損など。主に電磁的記録媒体(※2)に対しI/F や専用ドライブを介して作業可能な状態。

※1 当協会は、データが消えたこれらの状況を一律にデータ消失と記します。

※2 電磁的記録とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいいますが(刑法7条の2、⺠事訴訟規則3条の2 第1 項)、当協会は電磁的記録を保存するための媒体を一律に電磁的記録媒体と記します。HDD やFDD、テープなどの磁気媒体全般、BD、DVD、CD、MO などの光ディスク媒体全般、SSD やUSB メモリ、SD やコンパクトフラッシュ、その他の半導体メモリなどが電磁的記録媒体の例です。

2. 物理的障害

電磁的記録媒体の消耗や不具合、故障や破損、実装機器の不具合や自然災害などにおける外的要因による機能不全など。

主に機能を損なった電磁的記録媒体の利用者または開 発者からの読み書き命令に応答できる状態を一時的に回復させない限り作業不可能な状 態。

上記の論理的障害と物理的障害には、共通して、データ復旧の可否・程度に影響する「原 因」、「操作」、「度合い」の3つの要素があります。

データ復旧率を正しくお客様が理解でき るようにするためには、これら3つの要素を更に以下のように具体化して考えることが必 要です。

また、これら3つの要素は、個別事案に応じ、お客様の使用・用途、記録媒体、状 況その他によって量的・質的・その他において変動する性質があります。

① 原因

落下等の衝撃、外的圧力、使用による消耗、温度や湿度、ホコリなど利用に適さない環 境や気候等に起因する電磁的記録媒体の故障、サイバー攻撃、人的または自然災害・事故 等による消去・削除、破損、故障などデータの消失を引き起こすもととなったこと。

② 操作

誤操作、書き込み、負荷を与えるアクセス、加工または不適切な処置に加え、放置、分解などの人為的処置を含めた状況を悪化させるきっかけのこと。

③ 度合い

論理的な障害の深刻度(例:データ量、規模、範囲など)、物理的な障害の深刻度(例: 軽度、中度、重度など)のこと。

※データ所有者がおかれた危機的状態を指すものではありません。

ご留意すべきは、電話、メールなど連絡方法が何かを問わず、お客様から電磁的記録媒体がかかえる問題についてお話しを具体的にうかがうまで、事業者側は、当該記録媒体に生じたデータ読み出し障害の「原因」、「操作」、「度合い」を知る由もなく、障害に対応できるかどうか、お客様のご要望をどれだけ叶えられるか判断できるだけの情報を通常持ち合わせていません。

お客様の電磁的記録媒体に起きた論理的あるいは物理的な障害では、お客様から事業者がお話しをうかがってもなお、事業者側ではまだ把握できない原因、操作、度合いに関連する情報が多く残ることもあります。

更に別の観点から、結果に直接影響する事業者に関する要素(※2)として、「対応力」と「達成力」があります。「対応力」とは、各種ある電磁的記録媒体に事業者側が対応できる幅をいい、また、「達成力」とは、難易度に応じた技術面での事業者の目的到達力をいいます。

※2 受付件数や実績件数は結果に直接影響する要素に関係しないので除外します。

㋐ 対応力

論理的障害や物理的障害など、お客様のデータや電磁的記録媒体の種別に応じてそれ ぞれデータ復旧に対処できる事業者側の対応幅(※1)を指す。

受付の件数(※2)ではない。

※1 人員の限界、開封が必要なHDD の物理的障害への対応の可否、RAID への対応の可否及び水害への対応の可否などを指します。

※2 簡単な論理的障害だけに対応して受付件数が多い事業者(年間受付数〇〇〇件以上などの表記)もあれば、誰もが諦めるような物理障害を専門にする事業者もあり、お客様のおかれた状況で見た場合、受付の件数では、対応 力が判断できないためです

㋑ 達成力

お客様のデータや電磁的記録媒体に起こった論理的障害や物理的障害の難易度に応じた事業者側の技術力(※1)を指す。

実績の件数(※2)ではない。

※1 HDD ならI/F からアクセスできない障害に対しクリーンルームなどの設備や専門的な装置、それを操作する技術や知識の有無、半導体メモリであれば実装装置やI/F が無くても解析可能な装置、それを操作する技術や知識 の有無、パソコンのデータは対応できてもスマートフォンのデータは対応できないなどが一例になります。

※2 対応力と同じ理由で、実績の件数だけでは計ることができないためです。

以上の概念を用いて、電磁的記録媒体のデータ読み出し障害から作業結果までの流れをデータ復旧率に至る図式で表すと、下記図1のとおりです。

 

【図1】作業結果が出るまでの変動要素とお客様が判断する要素

 

上述のとおり、論理的障害と物理的障害の各要素は、お客様、当該電磁的記録媒体、状況等により個別事案によって変動します。事業者側の人的、技術的等の諸要素や、復旧成功経験の豊富な専門領域等々から、各障害との関係で常に固定化した高い確率でデータ復旧を実現できるとは限りません。

 

4.事例に基づくデータ復旧率の問題

より深い理解のため、事業者の多くが一度は体験したことがあると思われる事例を以下にご説明します。

事例

事業者A は電磁的記録媒体の種類ごとのデータ復旧サービスの豊富な経験を持ち、難度の高い復旧作業に対応できる充実した設備や技術を備えている。

お客様より「誤って初 期化し、更に容量一杯のデータで上書きしたので上書き前のデータを復旧できないか」というデータの誤消去に起因する障害の相談を受けた。

事業者Aは、電磁的記録媒体の論理的障害と判断し、経験豊富なスタッフや最新の設備を駆使して作業を行いデータも復旧して報告したが、お客様からは復旧を希望したデ ータが復旧されていないとの返事があった。

事例の「誤って初期化」は原因、「上書き」は操作、「容量一杯」が度合いに該当します。 事業者は、お客様からの相談を具体的にうけるまで、これらの情報を知ることはできません。そのため、相談を受ける前の段階では、「データ復旧率」は判明しません。

また、上記事例のように、データ復旧は全部でないものの成功しながら、復元されないデ ータもあってお客様にご不満があるような場合、実際に作業を行ってみなければ復元の可 否はわかりません。この場合も事前に数値でデータ復旧率を示しておくことは通常困難で す。

 

【図2】事業者の見解とお客様が判断する結果の違い

 

データ復旧サービスを利用した後にお客様が示された満足度を数値に置き換え、客観的には確認しづらい満足度を「データ復旧率」との表現を用いてWEB サイト等で広告宣伝をしている場合があります(図2を参照)。

実際にはお客様の事後判断である顧客満足度を、実際に診断をする前のお客様に示すことは通常難しいものであり、その場合、「データ復旧率」で表すこともできません。

 

5.データ復旧率は変動すること

事業者のなかには、総受付数をベースに、自社のKPI(重要業績評価指標)等の調査のために自社独自で統計を取り、これらの達成率から便宜上「データ復旧率」と称している企業もあるようです。ただ、当該数値を「データ復旧率」と称してお客様の誤解を招くことはないか、また、データ復旧率といえるだけの客観性ある十分な根拠の裏付けのある数値である かが問われると考えられます。

各事業者の達成率は、サービス継続下においてその時々の諸状況、製品市場、技術環境の 変化等の影響を受けて変動が生じることが通常と考えられ、固定値の「データ復旧率」を示し続けることは一般のお客様からの復旧依頼を前提とするかぎり通常難しいと考えられます。

 

【図3】受付数に対する達成率の変動割合

 

自然災害対応で平常時以上の依頼があり受付件数が増加する要素があったとしても、その多くは被災環境に起因した障害(浸食、腐食など)であり、復旧が不可能となる可能性を抱えており、総受付件数に対する復旧できない割合が増加します。

このように依頼件数が記憶媒体の仕様上通常有する使用保証年数とは無関係に起こりうる偶発事象によって需要が急増し、その後は時間経過により逓減傾向が避けられないなど、データ復旧業界を巡る地域的、社会的な環境変化が不可避的に発生します。図3で示す総受付数による「復旧できた割合」と「復旧できない割合」は変動値を普通は示します。

また近年は、HDD やSSD におけるデータ削除の痕跡が仕様※3 により復元不可能な抹消となる時代に転換しつつあります。そのため、事業者の総受付数等に関係なく、「復旧できない割合」が年々増加する傾向にあります。

※3 記録方式の進化やNAND メモリの特性により、不要と判断されたデータは短期間で抹消され復旧できなくなる。

 

6.3〜4割のお客様が抱える復旧できない原因

「復旧できない割合」を当協会の会員企業各社からの報告をベースに、主な原因を「論理的障害」と「物理的障害」に分けまとめると次の図(図4)のとおりです。

 

【図4】復旧できない割合の内訳となる主な原因

 

参考までに、当協会の会員企業への聞き取り調査では、総受付数をもとに復旧できた数と復旧できなかった数を比較したところ、ほとんどの会員企業で概ね6:4 または7:3の比率となりました。つまり、会員企業がデータ復旧の依頼を受けたうち、3〜4割はデータ復旧できない結果となっています。

事業者は合理的な根拠の裏付けをもって、十分かつわかりやすくお客様の説明できなければなりませんが、総受付数の90%以上ものデータ復旧に成功しているとの広告がある場合、成功率が異常に高いために、その率を割り出した分⺟と分子は具体的にどのような構成なのか疑問が生じます。

 

7.事業者側がデータ復旧の成功を判断することの難しさ

「データ復旧率」という言葉を本当に使うべき人は誰かということですが、これは事業者 ではなくサービスを利用してデータを受領したお客様であるべきです。

この理由を説明するため当協会の各会員企業が「復旧できた割合」を占める主な結果をまとめたものが次の図 (図5)となります。

 

【図5】復旧できた割合を占める主な結果

 

事業者がお客様から事前に復旧を希望するデータの全てを聴取できれば、その聴取内容と復旧の作業結果からデータ復旧率を正しく算出できます。ただ、大半のお客様は記憶を十分保持しておらず、そのため、復旧を依頼する多くのケースにおいて、お客様は必ずしも事前に事業者に対して全ての説明はできておらず、結果を見てから判断しています。事業者が100%に近い結果を出したと思っても、お客様からすると100%の結果が得られたと受け取らない場合が出てきます。逆に事業者が50%のデータ復旧率にとどまったと感じても、バックアップがあるなどからお客様は必要なデータは全て復元されたと思う場合もあります。

 

【図6】事業者とお客様の復旧率は変動する

 

障害等のためファイル名を全て消失した状態でしか復旧できず、お客様自身が目視で確認しない限り必要なデータの復旧の有無を正確に判断できない場合もあります。お客様だけが内容や状態を知るデータの場合、やはり復旧の割合は作業後にしか通常は判断できません。

データ復旧の成功・不成功は、個別のケースによって相当な違いがあり、それぞれのお客様との関係では各事業者が対象HDD 等の診断前のお客様に当てはめて、数値をもって復旧率を表すことは、この場合容易ではありません。なかには、サービス利用後でもお客様が復旧の有無の結果を確実には実感できない場合もあり、「データ復旧率」を使った説明は一層困難と考えられます。

以上のように、データ復旧の成功・不成功はお客様の「満足度」の視点で判断されることがあるため、データ復旧の成功を事業者側が判断することには困難を伴うことが相当あります。この実情を踏まえ、当協会に加盟する各会員企業では、「データ復旧率」を用いること自体不適切と判断し、「データ復旧率」を使った広告等は一切行っていません。

当協会加盟企業は一丸となって、適正な相場の診断費とデータ復旧サービス対価をあらかじめお客様に明確に示し、電磁的記録媒体の障害でお困りのお客様が安心してご利用いただけるよう、模範となるべく健全な業界活動を行っています。

 

8.被害に遭わないために

当協会に寄せられたお客様の苦情相談をもとに、トラブル回避のための注意点を主に、「診断時」と「作業依頼後」の2つに分類し以下に説明します。

1.「診断時」に起こる消費者トラブルへの注意点

診断に必要な費用は、復旧成功の場合と不成功の場合に分けて具体的な負担額をあらかじめ確認する。

復旧の可否を見極めることを目的とした費用は、業界では「診断料」、「調査料」、「検 査料」などの名目で診断に掛かる実費(以下、診断費という)を指すのが定義であると 一般的に認識されています。

復旧の可否を見極めるために電磁的記録媒体を分解して物理的な処置を施さなければ ならない場合や、緊急性が高く特別な対応を求められる場合があり、これらの場合に対 処する際、部品として用いるドナー媒体にかかる費用や診断に関わる経費などを含めて 有料診断とすることがあります。

ただ、高額な診断費はお客様が法人の場合では状況によってかかることもあり得ます が、後述する、例えば複雑で大規模なRAID のような依頼事案は個人のお客様からはほとんどなく、診断に事業者が多額の費用を持ち出すようなことは通常ないのが現状です。

2.「作業依頼後」に起こる消費者トラブルへの注意点

冷静さを失わずに納得のいく作業費用負担の契約であることを確認する。

データを復元することを目的とした費用は、業界では「作業料金」、「復旧料金」、「解 析料金」などの名目で作業に掛かる実費(以下、作業費という)を指すのが定義であると一般的に認識されています。

そしてこの作業費は、無料診断や有料診断を経てデータリストなどの結果と共に見積 りとして事業者から出されるのが通常の流れで、その結果と見積りにお客様が同意して 正式に発注し費用を支払うのが一般的です。

しかし復旧を急いでいるお客様は、大事なデータを復旧して欲しく、復旧可否が判断 できない状態のまま拙速に契約を交わしてしまいがちです。トラブルはこのような状況 下で契約してしまって生じるケースが多いため、お客様が交わそうとしている契約は、 復旧作業を行って復旧できなかった場合でも高額な作業費を支払わなければならない内 容ではないか、お客様が復旧を希望するデータの提供があって初めて作業費を支払う内 容になっているか、など事前に確認したうえで契約を交わす必要があります。

また深刻な障害では、難易度の高い作業を終えない限り復旧可否が判断できない場合 があります。このような状況では、事業者側の負担が大きいことからデータが復旧でき た後のキャンセルリスクに備え、事前に契約をして作業を行う成功報酬タイプの作業も あります。このような場合は何をもって成功とするのか、もしデータが復元できない場 合に支払う費用がどの程度なのかを契約時に確認しておく必要もあります。

事業者から「過去に同じ状態で復旧できたことがある」などといわれてその言葉を信 じて契約を交わしたものの、結局データ復旧が上手く行かず、それでも交わした契約を 理由に高額な作業費を請求されトラブルになることがあります。データ復旧の期待をお 客様に抱かせ契約を急がす文言や手口には注意が必要です。

データ消失等のために気持ちが動揺したり不安になっても、いったんは冷静になり、 また、1社ではなく、他社にも相談して各社の説明を比較し、契約をするか否か、契約 するとしてもどの業者と契約するかを十分検討して契約することもお勧めします。

 

9.費用負担を事前に明確にする「RDRSP:2022 基準」

人が働く以上事業者側には費用が発生し、データが復旧できたか否か結果を出すまでの間、一定の作業費用は避けられない場合も少なくありません。また、仕事を引き受けることで他のご依頼をお断りせざるを得なくなったり、後回しにしなければならないこともあります。そのため、「復旧できなかったので代金は一切払わなくてもいい」とすると、事業者側がその分の費用の持出しや逸失利益が生じるため、費用負担をお客様にお願いせざるを得ない場合があります。

しかし事業者のなかには、事前に十分な説明もせず、復旧できなかったにもかかわらず、一定の費用が必然的に生じることを口実に、後になってお客様に高額な費用を請求してくる事業者もいるようです。「データ復旧率」の広告宣伝は、後に法外な費用負担にお客様が陥る前触れとなる悪意ある誘引ではないか、冷静かつ慎重にあらかじめ見極めることが大切です。お客様がこうした被害に遭わないために当協会は下記図7の「RDRSP:2022 基準」を定めました。

これは、事業者がお客様からデータ復旧のご依頼があった場合に、診断料、作業費の各費用について、データ復旧が成功した場合と成功しなかった場合に場合分けし、口頭で、明確に費用負担をどちらがするのかを説明し、お客様としても、どのような場合にどれくらいの費用を負担しなければならないのかを、十分理解し納得したうえで正式に依頼するかどうか決めていただくための事前のチェックリストになります。

例えば、事業者がHDD からのデータ復旧の依頼をお客様から電話で受けたとき、事業者はRDRSP:2022 基準を手元で参照しながら、成功・不成功の2つの場合に分けて、診断料、作業料の2つの費用項目について負担額を1つ1つお客様にご説明します。正式にご依頼を受けるに先立って、RDRSP:2022 基準に従って事前説明をする業者は、お客様にとっては後のトラブルを回避する基準を使った業者として安心できるはずです。

ちなみに、RDRSP は、適正(Reasonable)なデータ復旧(Data Recovery)の基準(Standard)と価格(Price)の頭文字からなる略称です。この基準条件を満たせば当協会以外の事業者も「RDRSP 適合」を宣言できるものです。「RDRSP 適合」認定をどうするかは今後当協会で更に検討する予定です。

 

【図7】RDRSP:2022 基準

 

1.診断料(※1)

「復旧できない」場合に高額な診断料をお役様に負担させるのは通常不適切です。たたし、その一方、復旧依頼の目的、想定される工数、作業の難易度(複雑困難の程度)、対象物の価値、事業者の持ち出し(逸失利益)等などから、「復旧できない」場合であっても、相応の診断料をお客様にご負担いただかなければならない場合もあり、それを前提とした場合のサービスを基準として表記しています。この場合、事前の十分な説明とお客様のご納得は極めて重要になります。「復旧できた」の診断料の負担についても事業者が提供するサービスによって異なります。

2.作業料(※2)

簡単な作業で復旧できる記憶装置から大規模複雑なRAID のようなものまでデータ復旧サービスの対象は多様にあります。そのため、作業料の統一的な料金の設定は困難なのが実情です。正式に依頼するに当たり、十分説明し納得のいく金額をお客様に確認のうえ同意いただいた金額が「復旧できた」場合の作業料となります。

3.その他

図7の基準で照らすことができない悪質な業者がいます。例えば、依頼時の送料を事業者負担とすることによって、わかりやすい説明をせず十分な納得も得ないままお客様に記憶装置を自社に送付させるため、宅配便の手配を急がせる手口があり、こうした手口には注意が必要です。

健全なデータ復旧サービスの事業者であれば、お客様が費用を無駄にしないよう配慮し、本当に満足する結果が得られるよう、あらかじめ明確に説明し、診断前に過度な期待を抱かせぬよう対応するはずです。「RDRSP:2022 基準」はその理念を基礎にします。「RDRSP:2022基準」が、多くのお客様が安心してデータ復旧サービスをご利用できる手引きになると信じております。

 

10.本ガイドラインが対象とするお客様の範囲

データ復旧サービスにおいて保護すべきお客様として本ガイドラインは個人のお客様を典型としています。ただ、データ復旧の知見は事業主や法人であっても一般には持ち合わせておらず、不本意なトラブルに発展するおそれがあります。そのため、データ復旧サービスの知見を特に持ち合わせておられない事業主や法人にとっても本ガイドラインの参照と運用は有益であると考えています。

 

11.ガイドラインの提唱企業名

「RDRSP:2022 基準」を含む本ガイドラインは、以下のデータ復旧に関わる事業者、ストレージメーカーの統一した見解です。

  • 株式会社アイ・オー・データ機器
  • アイフォレンセ日本データ復旧研究所株式会社(大阪データ復旧)
  • アドバンスデザイン株式会社
  • 株式会社アラジン(データレスキューセンター)
  • A1データ株式会社
  • 株式会社くまなんピーシーネット
  • 株式会社DD-RESCUE
  • 株式会社パソコンドック24
  • 株式会社バッファロー
  • ロジテックINA ソリューションズ株式会社

(五十音順)

最後に、これから益々進歩していくデジタル社会において、本見解が多くの皆様方に周知されご賛同いただけることを祈り、当協会の理念が社会基盤維持に役立ち、社会の一助となるに相応しい健全な業界づくりと発展に専念して参ります。

2022 年8 月1 日
一般社団法人 DRAJ 日本データ復旧協会